『日蓮の手紙』を読んで

日蓮の手紙』(植木雅俊訳、2021年、角川ソフィア文庫)を読んで、日蓮のイメージが変わった。細やかで素晴らしい指導者だと今や思う。そして、博覧強記かつ実行力に満ちた人だったのだろう。

 日蓮が、信者の四条金吾に宛てた手紙の中に、崇峻天皇殺害の歴史に言及し、短気者の金吾を指導したくだりがある。九思一言(くしいちごん)せよと。九度考えて初めてひとこと言うべき、との意味だ(156頁)。

 崇峻天皇から、人相について聞かれて聖徳太子は、天皇の目に赤い筋があり、人に憎まれる相だから、仁義礼智信を心がけるよう忠告したらしい(158頁)。聖徳太子にみえた筋とは、いわゆる死線のようなものなのだろうか。

 崇峻天皇はその後、献上された猪の子の眼をこうがいでずぶずぶと突き刺し、「いつか憎いやつをこのようにしてやる」と言った。この件が蘇我馬子に伝わり、先んずるしかないと馬子は天皇を暗殺した(159頁)。

 他にも、人に妬まれ恨まれていた武士にたいして日蓮は、夜道を歩くときに襲撃されないようにと細やかな注意を与えたり、訴訟の際の返答や立ち居振る舞いにいたるまで、細やかに指導したりしている。

 また、当時は女性を差別するような仏教思想もあり、ある女性信者が日蓮に、生理中に法華経を唱えてよいものかと、相談している。日蓮は、生理は自然の摂理なのでまったく気にしなくてよいこと、仏教の真の教えでは男女の差などないことを的確に指導している。